Mbiraski with Power Amp
友人から特別に発注された、アンプ付きムビラスキイ。筐体には、米軍のFirstAidKitの空き箱を流用している。

当初はボディー側にブレードを設置するというコンベンショナルなスタイルだったが、蓋側に楽器を埋め込んだら面白そうなのと、スピーカーにマトモなモノを奢るためにこのようなデザインを選択することとなった。

電源はAC供給のみで、軽量化の為に敢えてスイッチング電源を使用する。出力は、スピーカーの定格10Wギリギリに設定しているが、このサイズのスピーカーで大入力に耐えうるものは極端に少ないうえに、音源との距離を稼げないことによって生じるフィードバックの発生が原因となった結果、期せずして最高出力の最適化が自動的に行われてしまったようだ。

EQの搭載は必須である。今回はオーソドックスなギターアンプ風の回路を実装している。外部入力用の端子を完備。これではほとんどギターアンプである。
まずは「箱ありき」でスタートしたこのコンセプトモデルの裏テーマはアンチ・ナチュラル/反自然志向であった。巷を席巻する胡散臭いエコブームに対する懐疑の姿勢というのだろうか。

米軍のFirstAidKitはアメリカのサプライヤーから10年程前に購入したもの。中身は当然期限切れとなっていて、パーツケースとして流用していたモノだ。防水仕様のため機密度が高いのだが、その構造上、内部のクリアランスを思った程稼げない点に注意する必要がある。ボディー側の実質的なクリアランスは50o程で、格納するスピーカーの奥行きはこの値以下に制限される。当初はBOSEのケヴラーコーンSPを実装する予定であったが、スペースの確保が難しく断念した。実際的な選択肢はFostexの8cmフルレンジ以外には無いだろう。
当初、掲げていた「アンチ・ナチュラル志向」というコンセプトから、素材には出来るだけ人工物を使うこと目指し、ルックスと堅牢性を鑑みてガラスエポキシ板を響板に使用したところ、音は予想を超えて悪く、使用を断念。結局はアフリカンブラックウッドという木材を使用することとなった。

「アンチ・ナチュラル/反エコロジー原理主義」という意味では無慈悲に伐採されたアフリカの木材を使うことは正解なのだろうか?だが、自分の立場を省みた場合、「反コンセプトアート」な人間でもあるので、これ以上捻くれた考え方に拘泥せず、出音の良し悪しを価値基準の中心に捉え直すことにする。

ブレードには6/4AlVのチタン材を使用した。チューニングは、Cmaj/Dpentatonicの組み合わせ。
収納はこのような形で行う。蓋側に組み込んだ響板が分厚い木材に変更となったため、当初の計画よりもクリアランスはギリギリとなる。また、響板の固定を確実にするために、防水性の観点からはあまり好ましくないことではあるが、蓋裏側に穴を空けてスクリュー2本による固定を行った。箱の内側には導電性塗料でシールドを行ってある。

センサーには圧電ポリマーシートを採用している。設置場所はブリッジの真後ろで、厚手のプラスティック・テープによってサンドイッチ状にフローティングさせたものを、ガラスエポキシ製のマウント用基板で固定している。インピーダンスが極端に高いセンサーなので、信号のハンドリングにはそれなりの注意が必要となる。
クリアランス問題を解決するための窮余の策が、部品装着部のサブフレーム化である。これによって、10o以上のマージンを稼ぐことを目指した。穴開けの精度がイマイチだったために、ポットによっては回転が渋くなってしまったところが反省点である。ツマミにはスイス製のライテルを使用している。これは、音響屋御用達のプロ用機材としては、Neutrik、Remoと並ぶ老舗の製品である。ポップな外観が好ましく、音響機器のカスタマイズ第一歩はツマミをライテルに交換することにしている。

VRには軸の細い通称「通工用」と呼ばれる密閉タイプのものを奢った。サブフレームには、スピーカーを設置するパネルを補強する役割もあるため、取り付け部分の支点の配置には気を配る必要があった。
当初は、VCF基板を奢り、外部スピーカーが接続可能、という欲張った機能を目指したが、VCF、パワーアンプ、共に音質がイマイチでその採用は却下となった。まず、パワーアンプ用のICは、6W出力のLM4940から、使い慣れたLM3860に変更された。LM3860は、パワード・スタジオモニター用として使われていることからも解るように、フラットな音質が売りのオーディオパワーアンプ用ICである。コレを使ったアンプを実際に数台製作しているが、素直な音がしてとても使い易い素材である。ただ、今回のプロジェクトにはその仕様はオーヴァースペックで、案の定実験中に一度SPをオーヴァーロードしてしまった。 VCFに代わる回路としては、オーソドックスなギターアンプ用のEQ回路を選択した。オリジナルはフェンダーギターアンプのトーンコントロール回路であるが、コレの定数をムビラスキイ用に変更して、実装している。回路の前後はバッファーアンプを通してアクティヴ化してあるので、EQの「効き」は従来のフェンダータイプから想像されるよりも鋭くなっている。
色々と迷ったが、最終的にアンプ側のパネルは赤く塗られることとなった。赤腹イモリのようであるが、実物はもっと落ち着いた感じだ。コントロールは左から、Mbiraski、ExtInput、Bass、Mid、Treble、Master となっている。スピーカーグリルのメッシュが作用して、SPの動きによって微妙なモワレが見えるところが面白い。

外部入力にはギターを直結出来るようハイ・インピーダンス仕様となっているが、この所為で、無闇にVRをアップした場合に発振を起こしてしまう事が解った。ただ、このサイズの筐体にパーツをギュウギュウ詰めにしている事から、根本的な対処をすることは難しいようで、「入力が無いときはVRを無闇に上げないでくれ」と、クライアントにお願いすることで解決してしまった。なんにせよ、1号機なのでノウハウの蓄積はこれからなのである。 EQを実装したことはハウリング対策としてはまさに正解で、VCF製作失敗が怪我の功名となった。